総会メッセージ

総会メッセージ

第55回日本病院・地域精神医学会総会を愛知の地で開催することとなりました。

本来ならば、第55回総会は福島県で開催される予定でした。しかしご存じのように、福島県は2011年3月11日に発生した東日本大震災とそれにともなって発生した福島第一原発災害の被災地であり、第55回総会を彼の地で開催することが困難となりました。

そのため急遽愛知での開催を要請されました。災害支援の意味からも何とか愛知で開催できる道をさぐってきました。しかし、短い準備期間、人的資源や組織的基盤の乏しさ、会場確保の困難さ、どれをとっても条件は芳しくありません。それでも、シンポジウムを中心としたコンパクトな総会なら何とかなるかもしれないと考え、当地での開催をお引き受けすることとしました。

第54回沖縄総会における沖縄戦の記憶と精神障がいに関する印象的な講演とシンポジウムは、私たちに深い感動を与えました。敗戦後60年以上を経ても風化することのない戦争の記憶、そしてそれによって傷つけられたこころ、それはこれからも私たちが引き受け続けるべきものでしょう。

沖縄総会においてはまた、東日本大震災に関するシンポジウムがもたれました。「未曾有の」と形容される東日本大震災とそれにともなって発生した原発災害は、もちろんいまだ記憶でも歴史でもなく、これからも継続的な支援を必要とする事態です。震災に関するシンポジウムでは、震災直後に発生した諸問題とともに、これから長期にわたって取り組むべき課題が示されました。

沖縄戦の記憶と東日本大震災に共通すること、それは人びとの、個人のあるいは家族の生活やつながりのみならず、コミュニティが徹底的に破壊されたことです。それらを再構築することはとても困難な営為です。しかし、精神保健の問題も含め長期的な視野に立って取り組まなければならない課題です。私たちはかつて、本土決戦を避ける代わりに沖縄の人びとに重い犠牲を負わせました。そして今なお米軍基地という負担を負わせ続けています。

そして今、都会に住まう人びとは、地方に原発を配しそのエネルギーを享受してきました。そのような構造が見直される必要があります。

障がい者をめぐる法・制度は変わろうとしています。2006年には国連で障害者権利条約が採択されました。国内では2011年には障害者基本法が改正され、2012年には障害者総合福祉法(仮称)の制定が予定され、2013年には障害者差別禁止法の制定が予定されています。これらの法・制度は、障害者権利条約が締結されるための法整備を行うという意味をもつとともに、いずれも当事者のニーズを実現する制度をつくるという意味を有しています。いまや、当事者を抜きにして制度を立てることはできない時代になっています。これはある意味で当然のことでしょう。私たちは当事者とともに歩み、当事者が当たり前の生活や社会参加ができる社会の実現をめざさなければなりません。

第55回総会で予定されるシンポジウムは、ひとつは沖縄で提起された問題を引き受け、語りついでいくものとして東日本大震災とそれにともなって発生した原発災害の問題を取り上げます。震災発生直後のある種の熱狂は冷めつつあります。そして「復興」のかけ声のもとにコンクリートの下に被災者の苦悩が塗り込められようとしています。早いところ遠い記憶にしてしまおうとする動因がかかっているようにさえ思われます。しかし、被災者にとっては決して遠い記憶にはなりえないことを、沖縄総会で学びました。先に大震災の被害や戦争被害は、個人や家族のつながりや共同体のつながりを破壊してしまうものであることを述べました。第55回総会のテーマのひとつは、時間的・空間的なつながりをとりもどすことです。“つなぎ、ひらく”の“つなぎ”に込められた思いです。

もうひとつは、これからの精神障がい者のための、さらに障がい者全体のあるべき医療・保健・福祉の法・制度を明るく構想するためのシンポジウムです。こちらは、できるだけ明るく楽しく語り合えたらと思います。先にも述べましたように、当事者の視点を欠かすことはできません。精神医療・保健・福祉のそして障害者施策の新たな地平を拓くようなシンポジウムになるよう願っています。“つなぎ、ひらく”の“ひらく”に託された希望です。

第55回総会は、これまでのいわゆる「平時」の総会と比べれば規模も小さく、外形的には見劣りがすることは否めません。それでも内容だけは充実したものにしたいと、運営委員・事務局員一同は奮闘しています。総会を充実したものにするためには、多くの方に参加していただき、活発な討論をしていただくことが不可欠です。精神医療・保健・福祉従事者、当事者やご家族、そして市民の方々が多数参加してくださるよう切望しています。

2012年2月
第55回総会 会  長 吉田 弘美
同   事務局長 末続なつ江

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